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髪の毛の総本数は約10万本で、ヘアサイクルから考えると1日50~100本くらいは抜けても生理的範囲内です。この生理的範囲を超えて抜けると毛髪は薄くなったり、ある部分がまとめて抜けたりして、脱毛症となります。この毛髪の固有のリズムは局所あるいは全身の状態の影響を敏感に受けます。
日常診療で遭遇する脱毛症として、AGA(エージーエー/男性型脱毛症)、円形脱毛症、抜毛症(トリコチロマニア)、薬剤による脱毛、感染症による脱毛、腫瘍性脱毛、機械性脱毛症の他、栄養・代謝障害による脱毛、内分泌異常による脱毛、分娩後脱毛、粃糠(ひこう)性脱毛症(脂漏(しろう)性脱毛症)などがあります。
脱毛症 | 症状 | 原因 |
◇AGA(エージーエー)
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思春期過ぎに遺伝的背景を持つ男性の前頭部から頭頂部で起こりますが、女性でも頭頂部を中心に同様の変化をみることがあります。 | 遺伝や男性ホルモンの影響などが主な原因と考えられています。 |
◇円形脱毛症
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主に頭髪に類円形に脱毛巣が生じますが、ときに広範に一気に脱毛することもあります。 また、脱毛が進行している病巣を拡大してみると、短い切れ毛や切れ毛の根元が細い感嘆符毛、萎縮した毛が毛孔内に塊状に詰まった黒点などの病的毛がみられます。 | 自己免疫機序による発症と考えられ、ストレスは引き金にすぎません。 |
◇抜毛症 (トリコチロマニア) |
側頭部などに境界が比較的明瞭な脱毛斑が生じます。病変内には不揃いな毛髪が残存し不完全な脱毛斑を呈しています。 | 頭毛、眉毛など自分の毛髪を自ら引き抜くことによって生ずる脱毛症であり、発症の背景や誘因は発症年齢により異なります。 |
◇薬剤による脱毛
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抗癌剤による成長期脱毛。高度のびまん性脱毛をきたします。 | 抗癌剤により高度の脱毛が起こることはよく知られています。抗癌剤以外の薬剤によっても脱毛の原因となることがあります。 |
◇感染症による脱毛
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小斑状梅毒性脱毛。梅毒患者の耳介後部に境界が不鮮明な不完全脱毛斑を生じた、いわゆる「虫食い状」といわれる脱毛巣です。 | 脱毛の原因となる感染症としては、皮膚糸状菌によるケルスス禿瘡、ブドウ球菌などによる急性深在性毛包炎や慢性膿皮症、梅毒性脱毛、ハンセン病の脱毛、ヘルペスウイルスによる帯状疱疹の脱毛があります。 |
◇腫瘍性脱毛
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癌の転移による脱毛。乳癌患者の末期に頭頂部に3個の脱毛斑を生じた(写真)。脱毛部はドーム状に隆起した結節例として認められます。 | 皮膚原発以外の悪性腫瘍の被髪頭部への転移により脱毛がみられることがあります。 |
◇機械性脱毛症 (圧迫性) |
前側頭部の牽引性脱毛症と搔破による機械性脱毛症の混在例です。両側に対称性に疎毛化がみられます。 | 牽引、摩擦、圧迫などの物理的外力により、毛が引き抜かれたり、毛幹が破壊されたりして脱毛が生じます。 |
◇栄養・代謝障害による脱毛 | 亜鉛欠乏症候群に伴う脱毛。頭髪、眉毛の脱落及び、びらん・亀裂を伴う紅斑。 | 主に持続性の消化管疾患(タンパク吸収障害、漏出)や亜鉛欠乏症に伴って脱毛が起こることがあります。 |
◇内分泌異常による脱毛 | 甲状腺機能亢進症の術後に前頭部から頭頂部にかけてびまん性脱毛を生じた例(写真)です。 | 甲状腺機能低下症や亢進症などでしばしばびまん性脱毛が起こることがあります。眉毛や体毛の減少もみられます。 |
◇分娩後脱毛 | 32歳、日本人初産婦、分娩4ヵ月後、前頭部生え際の後退が目立つ症例(写真)です。 | 分娩2~4ヵ月後にびまん性に脱毛が起こることがあります。約半数の母親が脱毛を自覚するといわれています。 |
◇粃糠性脱毛症 (脂漏性脱毛症) |
フケが増え、局所の炎症が強まって、毛根部の活動が悪くなり、抜け毛が増えます。 | 皮脂の分泌異常、マラセチア菌の感染、局所の炎症などが原因と考えられます。 |