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毛の生物学

毛は哺乳類が共通して備えている皮膚の付属器官です。毛は、多くの動物において物理的外力からの保護、害虫や紫外線からの防御、保温、感覚器、重金属の排泄器官として非常に重要な役割を担っています。しかし、生命維持に重要なこれらの機能は、ヒトではあまり重要視されていません。

毛の構造

毛は皮膚から外に出ている「毛幹」と皮膚の中に隠れて見えない「毛根」の2つに分けられます。
毛は、毛包という筒状の膜に包まれています。毛包の周囲には血管が網の目状に張り巡らされ、毛根に栄養や酸素など、毛の成長に必要なものを送り届けています。
毛根の根元の卵形に膨らんだ部分を「毛球」といい、毛球のくぼんだ部分を「毛乳頭」と呼びます。毛乳頭に接して「毛母細胞」があり、この毛母細胞が毛乳頭に分布している毛細血管から栄養を吸収して増殖・分化を繰り返し、上に伸びて毛になります(図1)。
図1:毛の構造

毛は、外側から毛小皮(キューティクル)、毛皮質(コルテックス)、毛髄質(メデュラ)の3つの層から成り立っています。
毛小皮は1ミクロン程度の薄い膜ですが、非常に丈夫で外部の刺激から毛を守る役割をしています。
毛皮質は毛髪の大部分を占め、たんぱく質の細い線維が束になっています。その線維がほどけて広がらないように柔らかいたんぱく質が隙間を埋め、接着剤の役割をしています。毛小皮が損傷を受けると、このたんぱく質が流れ出し、毛髪が傷んでしまいます。
毛髄質は毛の中心にあり、比較的柔らかいたんぱく質でできていて、たくさんの空隙があります。毛髄質がない毛髪もありますが、毛髪の弾力や強さには関係なく、その役割はわかっていません。

毛の発生

毛は皮膚が変化してできます。最初にその変化が起こるのは胎児期で、ヒトでは9週ごろからみられます。胎児の体表には500~600万の毛包が作られ、その後は新たに毛包が作られることはありません。このため、出生後いかに体が大きくなっても、毛包の数は一生涯を通じて変化しません。
①胎児期の皮膚では、まず皮膚の表面を覆う表皮細胞が活発に増殖し、細胞の集合体を形成します。これを毛芽と呼びます。
②毛芽は、斜め下に向かって伸び、真皮に達し、くぼみのある球根状になります。
③真皮の線維芽細胞がそのくぼみに取り込まれ、毛乳頭が形成されます。その後、皮脂腺、立毛筋が形成されます。
④毛乳頭は周囲の細胞を毛母細胞へと変化させ、その増殖を促すとともに毛へと変化させます。(図2)
図2:毛包形成

発毛のメカニズム

毛は毛母細胞が増殖・分化して作られています。毛母細胞は毛乳頭に分布している毛細血管から栄養を吸収しています。また、毛乳頭は直接成長を促すシグナルを毛母細胞に伝達しています。
毛髪は1ヵ月に約1cm(1日に約0.35mm)程度成長するといわれています。

ヘアサイクル

毛髪の成長には周期があり、成長、脱毛を繰り返しています。これをヘアサイクルとよんでいます。ヘアサイクルは成長期、退行期、休止期の3つに分けられます。(図3)
通常、毛髪の成長期は2~6年、成長期から休止期に移行する退行期は約2週間、休止期は3~4ヵ月で、このサイクルを繰り返しています。
・成長期:毛が成長する時期。いったん消失していた毛母細胞が再形成され、毛が一定の速さで伸長し続けます。
・退行期:成長期が終わる頃になると、毛の本体である毛母細胞の働きが低下し、休止期に入る準備を始めます。
・休止期:毛の成長が止まると、すぐに抜け落ちるのではなく、しばらく毛包にとどまり、やがて引っ張られるなどの物理的な要因をきっかけに抜け落ちていきます。
男性型脱毛症のヘアサイクルは成長期が短くなっています。
図3:ヘアサイクル